中央本線の旅 小淵沢へ

中央本線の旅

今年のゴールデンウィークはカレンダーの並びが良くてまとまっているので、逆にここらでたまりまくっている家の用事を根こそぎやってしまおうかと思っていたのだけど、夫にそういう感じのことをふわっと言ったら、「どこにもいかないのかね…」としょんぼりしていたので、せめて1日だけでもと、駅弁を食べて帰るだけの日帰り旅を敢行しました。一度、小淵沢駅に売っている「高原野菜とカツの弁当」を食べてみたかったのです。

小淵沢までの行程、最初はあずさでビューッと行くかと考えていたのですが(乗ったことないし)、でも、松本まで行くならいざ知らず、最終目的地は小淵沢だし、しかも駅弁食べるだけだし。だったら、各駅でのんびり行きましょうよ、となりました。夫が時刻表と首っ引きで調べた結果、府中本町~立川~八王子と乗り換え、そこから6時35分の始発電車に乗って小淵沢まで向かうことに。ここから小淵沢までは2時間半程かかります。

ところが意外なことに、八王子で始発電車を待つホーム、見渡せど見渡せど登山の格好をした人でいっぱい。私たちが知らなかっただけですが、休日の中央本線下りって、登山列車なんですね。っていうか、本当に山ブームなんだなぁと言うことを実感する人の多さ。皆さん並ぶ姿が手慣れていらっしゃって、休日なのに通勤列車の趣でした。そこそこ早めに並んでいたから良かったけど、ぎりぎりでホームに着いたら、やばかった。座れて良かったです。

登山の装備品はよく知りませんが、皆さんの装備のごつさはまちまち。3日ほど篭もるのか? というほどガチな荷物と格好の人もいれば、ハイキング? という感じのめっちゃライトな格好の人もいる。それが示す通りあんなに沢山いる人たちの行き先はまちまちで、藤野から先、ぽろぽろと皆さんお目当ての山へと向かって、降りていきました。でも、大月くらいまでは車窓を楽しむどころじゃなかったですね、人が多くて。

大月を過ぎると人も減り、車窓に南アルプスの山々が現れ始めて、ぐっと旅気分が盛り上がります。天気も良かったのでなお素晴らしかったですが、この景色がご馳走ですね。あずさで行っても見られる景色ですが、でも、各駅で行って良かった…と思いました。この景色が、この旅一番の思い出かもしれない。とかいいながら、上の写真はどこで撮ったか忘れたのですが(甲斐大和あたりか?)、ほんとにいい景色だったなぁ。

デュオレール小淵沢

家を出た時間から考えると、3時間。ようやく小淵沢駅に到着。空気はひんやり冷たく、からっと乾いた高原らしい気候。むしろ寒いくらいで、違う国にきた…と実感する。写真は、駅のホームから撮った丸政の製造工場(?)かな。「元気甲斐」の看板に、とうとうきた…と気分が盛り上がる。その手前に、小海線のホームもある。小淵沢駅は小海線の乗換駅でもあるので、ここで乗り換えると清里に行けるのよーと行ったら、夫が驚いていた(清里って、こんなところにあるの!? 的な驚き)。そういえば、ここからあと1時間15分頑張って乗ると松本に行けるけど、松本って遠いんだなぁ…とつくづく思った。行ってみたいと思っている街のひとつだけど、なかなか大変だ。まあ、それこそあずさに乗ればいいんだけど。

駅弁屋さんのある駅ってのは賑わっているのでは…と思っていたのだが、案外そうでもなかった。駅のホームの売店は閉鎖されているし、ゴールデンウィークなのに、なんとなく全体的にひっそりしている。

気を取り直して、早速、この度一番の目的地である、駅売店「デュオレール小淵沢」へ。丸政が運営する売店で、駅弁の他、地酒、各種お土産などがそろっており、簡単なイートインスペースもある。私たちの隣では、おばあちゃんとお嫁さんがコーヒーを飲んでいた。

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さてさて、とうとう、待ちに待った、「高原野菜とカツの弁当」とのご対面。丸政は京王の駅弁大会でも常連店舗のひとつで、このお弁当も毎年少し持ってきているようなのですが、夕方からしか覗けない私には縁遠い存在…。だからこそ、わざわざ小淵沢までお出かけしてみたのですが、ネットのインタビュー記事を読むと、そもそもお店の方もそのつもりで販売しているようです。このお弁当、予約せずに買えるのは小淵沢駅でだけなんです。

1970年から販売しているというロングセラー、パッケージのグラフィックデザインはいかにも70年代って感じだけど、古くさい感じはせず、それがすごくいい。毎年夏場だけ、予約注文限定でアルミ缶バージョンも売っているそうなのですが、正直欲しい。ちなみに、包装紙をたこ糸で縛っているのですがこれがうまくほどけず固結びになってしまい、売店のお姉さんにはさみで切って貰いました。はさみがなかったらどうなっていたことか…。

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中身は既に知っているのに、蓋を取るときって、なんだかときめく(このお弁当に限らず、お弁当ってどれもそう)。そもそも大きい弁当だし、持ったときずっしり重かったから、結構なボリュームだろうな…と思っていましたが、蓋を開けたときの「おおっ」という感覚は、想像以上でした。それは「うわ、量多いわ、食べきれるかなー」というどん引き感ではなかったのは、やはり野菜の存在だと思います。いうなれば、嬉しい驚きという感じでしょうか。

野菜がメインと言っても、まぁ、弁当だし…という予想は裏切られ、コンビニのサラダよりも、そこらへんのランチに付いてくるサービスサラダよりも、たっぷり入ったしゃきしゃきの生野菜たち。しかも、どれも、ちゃんと美味しい。駅弁と言うこともあって、もちろん塩素消毒しているのですが、くさくない(すごい)。

この駅弁は昭和45年に発売されているのですが、その後に、スキーブームがやってきて、ヤングが中央本線で長野方面にこぞってスキーに行く…と言う時代があったそうです。小淵沢はその中継点でもあるので駅弁が飛ぶように売れたそうですが、ボリュームたっぷりなのはその名残でもあるのかも。でっかい荷物を抱えて、鈍行に乗ってスキーをしに行くヤングも食べたお弁当。すごい活気だったんだろうなあ。

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野菜は、レタス、きゅうり、セロリ、プチトマト、ゆでカリフラワー、コーン缶。キューピーのレインボードレッシングと塩が付いていて、どちらで食べるかお好みで。後は、チキンカツ用にソースとマスタード。紙ナプキンも付いていて、まさに洋食弁当。

一応、メインディッシュはチキンカツでして、大ぶりのものが3切れ。パン粉をしっかりつけて、かなりハードめに揚げてました。生野菜と一緒に入っている割に、衣は意外としっかりしており、揚げ物弁当としてもグーな仕上がり。野菜の下にはスパゲティのケチャップ炒め、すみっこには山菜漬けなどが少々。チキンカツの上には、レモンスライスまでのっていて、小道具までぬかりなし。さすがロングセラーのお弁当、ちょっとした気遣いが心憎いです。

ごはんもたっぷり、250グラムほどかな。普段こんなに一気に白米食べないのでちょっと不安でしたが、野菜もたっぷりなので、大丈夫だった。美味しかったー。

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丸政のもうひとつの看板弁当、「元気甲斐」。これ、お店で頼むとき、どういうイントネーションで言えばいいか迷うのですが(下げるのか、上げるのか)、正解があれば、是非知りたい気がしています。それはさておき、この駅弁、そもそも、誕生の経緯がテレビ番組の企画で作られたこともあって、一時期はとても有名な駅弁だったそうですね。

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掛け紙のイラストは安西水丸。右下に「甲斐風土記より」という一文がありますが、よーくよむと、もっともらしい文章にしているだけで、お弁当の説明文なんです。色々凝ってます。丸政のページを見たら、ネーミングは岩永嘉弘、ディレクションは山本益博とあって、へえええ…と驚く。85年といえば、広告畑の人間にとってはイケイケのいい時代。そりゃ、いろいろ凝ってるわな。

「元気甲斐」は二段重ねのお弁当で、一の重は菊乃井、二の重は吉左右と言う料理屋さんがそれぞれに担当しています。菊乃井は今なお言わずと知れた京都の料亭ですが、吉左右は分からない…。ホームページには「東京の味処」とありましたが、「吉左右」で検索してもラーメンやさんしか出てこない。今は廃業されてしまったのでしょうか。

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ともあれ、一の重(菊乃井)。お品書きには、胡桃御飯、蓮根の金平、山女の甲州煮、蕗と椎茸と人参の旨煮、蒟蒻の味噌煮、カリフラワーのレモン酢漬、紫萁(ぜんまい)と揚げの胡麻酢合え、セロリーの粕漬。経木の弁当箱や朴葉を敷いたりなど、見た目もいい感じ。二段重と言うことを考慮してか、サイズは小振りですが、中年にはむしろちょうどいい量。ご飯とおかずのバランスがとても良く、これにお酒を1本付ければもう十分満足だな…という感じです。

どれもとても美味しかったのですが、なによりも、味のメリハリがしっかり付いているのが印象的でした。しっかり濃いめ、きりっと酸っぱく、優しい味わい…と、様々な味と食感のもの、ご当地を連想させるものを入れて食べ飽きないように工夫しているのが分かります。どれかひとつといえば、山女の甲州煮かなぁ。甘露煮かと思いきや、干しぶどうと一緒に炊いてあるところが、おおっって感じ。甘辛でほんのりぶどうの味もする、いい塩梅のおかずでした。これはちょっと真似して作ってみたいなと思うほど気に入りました。

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二の重(吉左右)も和食なんですが、一の重とは雰囲気が異なります。お品書きによると、栗と占地おこわ(銀杏、蓮根入り)、アスパラの豚肉巻、鶏の柚子味噌合え、公魚の南蛮漬、山牛蒡の味噌漬、沢庵。写真はちょっとおかずがあちこち飛んでしまっていますが(紐を外すときに少し振ってしまったので)、本当はもっときれいなはずです。紅葉や椿の葉をしきりに使っているなど、やはり和食屋さんやなぁと思わせるビジュアル。

お肉系のおかずが多くて、和食と言いつつも若い人向きな印象もありますが、味つけは品が良く、特に飯を呼ぶという感じの味つけではないところが嬉しい。おこわも美味しかった。それにしても、「味処 吉左右」ってどこにあるんでしょう。テレビ番組の企画で名前が挙がるくらいだから、当時はとても有名なお店だったと思うのですが。ネット以前のちょっとした情報って、なかなか探すの大変だなぁ…と改めて思ったのでした。そもそも、20年ほど前のことでもあんまり記録に残ってないことってたくさんあるし。

デュオレール小淵沢

食後に売店で地元野菜を物色。山菜が色々あったので、今回は山うどと白藤の花を買いました(翌日天ぷらに)。本当はコシアブラも買おうか悩んだのですが、何となくパスしてしまい、あとでじわじわ悔やみました。買えばよかったなぁ。今度行くときはもっとたくさん買おう。ちなみに、この方は私ではありません(勝手に撮ってしまいすみません)。

デュオレール小淵沢

デュオレール小淵沢の外観と、隣にある駅そばスタンド。愛読している『駅弁ひとり旅(11)』にある絵の通りだと、内心感激…(なくなっちゃったり、変わっちゃったりする売店も多いので)。駅弁業者さんは駅売店や駅そばスタンドもやられているところが多いのですが、丸政もそう。この後甲府市内に行きましたが、数店舗立ち食いそばやさんがありました。山賊そば、美味しそう。

小淵沢に着いたときは、売店にいるのは私たちとおばあさんとお嫁さんだけだったのに、食べ終わってぼんやりしていたら、思ったよりもたくさん人が駅にやってきてちょっとビックリ。サントリーの白州工場があるのは知っていたけど、そこからの見学客の他、周辺のホテルやペンションの宿泊客も結構いて、案外賑わいのある駅なのだなと思ったのでした。

そういえば、立川にゼルコバというパン屋さんがあって、一度行ってみたいと思いつつ未訪のまま今年の3月に移転してしまったのですが、実は移転先は小淵沢から行けるところにあることに後で気づいたのでした。気づいていれば寄ったのに…。もうこれは、もう1回小淵沢に行くしかないわけだね。多分。

 

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