サンドイッチ

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国立劇場で催されている「第9回亀治郎の会」に行ってきました。

うわ、すごい人だな…と思ったらそれも当然で、今日は初日なのでした。全体的には年配の女性が多いのですが、演劇好きと思しき若い人もちらほら。今年は協賛にエイボンが入っている関係か、立派な試供品も頂戴しました。

今年の演目は、「芦屋道満大内鑑」の「葛の葉」と、「博打十王」の2本。どちらも観るのは初めてですが、どちらも非常に面白かった。で、観劇の記録もメモしたのですが、何も考えずに書いてあとで読み返したらものすーーーごく長かったので、今回は折りたたみます。興味のある人だけお読みください。

幕間の弁当は、劇場で売っていたローストビーフサンドイッチ。ローストビーフかといわれると疑問符はつきますが、ボリュームはたっぷりでした。でも、このあと、歌舞伎揚げも食べちゃった私でした。

「葛の葉」は、信太森を舞台にした伝説がもとになっており、様々な小説、舞台にも描かれている話だそう。筋書きに転載されていた折口信夫の「信太妻の話」を読むと、現在残っている信太妻に関する話は、ほとんどが今日見る「葛の葉」に典拠しているのだそうです。ちなみに、お揚げを使った料理のことを信太○○ということもありますが、その由来はこの伝説からきているそうです。

今回は「葛の葉」一幕しか上演されないので、あらかじめ”これまあでのあらすじ”を知っておいたほうが分かりやすいかもしれません。今回、全く勉強しないで行ったので最初、ちょっと戸惑っちゃいました。

「葛の葉」に出てくる主な登場人物は、安倍保名とその妻である葛の葉。その子、童子。メインキャラクターはこの3人だけ。で、頭に入れておいたほうがイイのは、以下の5点。

    • 高名な天文博士の高弟である安倍保名は師匠の養女である榊の前と許嫁の仲だったが悪人の策略によって榊の前は自害してしまう。
    • 狂気に陥った安倍保名だったが、榊の前に瓜二つな女性に出会う。それが葛の葉であり、実は榊の前の実妹だった。
    • 同じころ、悪人に追われていた白狐を助けてあげる。
    • その後葛の葉に横恋慕している悪人に手ひどい目に遭う。
    • 辱めを受けたことを恥じて自害しようとするところを葛の葉が現れ、二人で安倍保名の故郷・阿倍野へ身を隠す。

ここまでを知ったうえで、今回観る「葛の葉」が始まります。大体、阿倍野に身を隠して6年ほど経ったころ。5歳になる男の子もおり、田舎で穏やかに暮らしている、そういう設定のようです。ここまでを知らなくても義太夫を聞いていれば何とかなりますが、私はまだうまく全部聞き取れないので、人物関係を整理するまでがちょっと大変でした。

「葛の葉」の筋は、葛の葉の両親(信太庄司、柵)が安倍保名が阿倍野にいることを知り、娘の葛の葉を連れて安倍保名の家に行くと、なぜか娘そっくりの女性が機を織っているのを見て驚きます(ここは葛の葉を演る俳優さんが早変わりで見せます)。

そこへ安倍保名が登場、「お義父さん、連絡もせず、勝手にお嬢さんと結婚して子供まで作ってしまってスイマセン」(って感じ)と謝るのだが、信太庄司一家としては「?」状態。「うちの娘はずっとあなたのこと探してたんですよ。一緒に暮らしている女性は誰なんですか?」「ええ、誰って、あなたの娘の葛の葉ですよ」、みたいなやり取りがあって、信太庄司が連れてきた葛の葉(お姫様みたいな恰好をしている)を見た後、自分ちの中で機織りしている葛の葉(お内儀さんみたいな恰好をしている)を見て、えええと驚く。じゃぁ、何年も暮らしてきた妻はいったい何者なんだ!? ってところで前半(安倍保名内機屋の場)が終了。

実は何年も暮らしてきた葛の葉は、安倍保名が以前に助けてあげた白狐だった…んですが、本物の葛の葉が訪ねてきたことを知った葛の葉狐は身を引かなければならないと決心するも、やはり我が子と別れるのは辛い。子供を寝かしつけながらこれまでのいきさつを語り、「ちゃんと勉強しなさいよ」などこれからの身の振り方を諭したりするのですが、この幕(奥座敷の場)ではこの独白が大部分を占めており、ここが見どころというか、聞きどころになるんだと思います。このシーンに限らず「葛の葉」は語るシーンが多く、台詞劇と言ってもいい状態なんですが、元が浄瑠璃なのでそれも納得。

最後に、童子と安倍保名へのお別れの歌を障子に書くシーンが最大の見せ所で、「恋しくは たずね来てみよ 和泉なる 信太の森の うらみ葛の葉」と書くのですが、最初は普通に、途中から左手で裏文字で書いたり、口にくわえて書いたりと曲書きするんです。いやはや、あれはすごかった。

で、最後に姿を消した葛の葉狐に向かって、安倍保名が「妻が狐だったとしても、決して恥ずかしいとは思わないよ」と叫び、童子を抱いて信太の森に走る。で、幕。この童子はのちの安倍晴明だそうです。

「芦屋道満大内鑑」は、各種伝説や古浄瑠璃をベースに初代竹田出雲が浄瑠璃用に作ったお話だそうですが、いやぁもう語る語る。歌舞伎に移植後は、早変わりや曲書き、立ち廻りなど動的な見どころも多々入れ込まれていますが、基本は聴く話なので、1階とか2階の正面席でどっしり座って観るのがいいんだろうなぁ、と思いました。亀治郎丈はもちろんのこと、保名を演った門之助丈の柔らかな物腰がいい雰囲気だなぁと感じました。

「博打十王」は舞踊劇。初演は昭和45年だそうで、猿之助丈が作った新作ということになるんでしょうか。話の筋は単純で、博打好きの男が死んで六道の辻で閻魔大王に会う。だます、金を巻き上げるなど、生前の男の悪行を見た閻魔大王は地獄行きを命じるが、男は「それは博打の話であって、悪いのは私ではない」と博打の説明をする。博打に興味を持った閻魔大王は男とサイコロで博打を始めるが、まぁ閻魔大王って博才ないのなんのって。散々巻き上げられて、最終的には極楽への通行証を渡してしまい、男は意気揚々と極楽へと向かっていくのでした。

私も少し賭け事しますから、閻魔大王がずーっと1の目ばかり選んでは自爆するって気持ち、よくわかりますがそれにしても弱いなー、と。そんなお茶目な大王様を亀鶴丈。もちろん博打打ちの男は亀治郎丈。おふたりとも踊りもとてもお上手なので、観ててとても楽しかったです。特に亀治郎丈の衣装は、上が

花札、下がサイコロの模様で下世話な衣装だのう、とも。後見さんや長唄連中さんたち全員が天冠(白い三角の布)をつけていたのもおかしかったです。

この日は初日だったので、「博打十全」が終わってすぐに20分ほどのトークショー。息切れ切れ状態でまぁやっぱり大変だよなぁと。亀治郎丈は「30を過ぎてから回復の時間が長くなりまして」と言っていましたが、わたくし、亀治郎丈と同じ年なのでその実感自体はよくわかります。トークは、3月11日は何をしていたかという話や(結構マヌケな話でした。人のこと言えないですけど)、これまでのチャリティー公演の話などで、最後に「葛の葉」で障子に書いた書をプレゼント抽選をやってシメ(もちろん外れました)。

来年で亀治郎の会はいったん終了とのことなので、来年もぜひ観に行きたいなぁと思った私でした。

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